畑はとにかく、ふかふかで柔らかく、足を踏み入れると、くるぶしまで沈むような感覚を覚えた。土づくりが一番大切だと、これまでも多くの農家の方が教えてくださっただけに、この感触の畑ができあがるまでにどれだけの努力があっただろうと、積み重ねた日々と生産者の情熱を思う。小高い場所にあるこの畑は、夫婦で農業を営む松本家徳さんと亜紀さんの土地。6年前に、福岡の糸島から小郡へ畑を移した。「最初はトラクターの刃が入らないほどの硬い赤土。なのに雨が降れば、ぐちゃぐちゃ。煉瓦か粘度かというほど野菜を育てるには過酷な土でした」。
さまざまな方法を繰り返して辿り着いたのは、無農薬・無肥料で育てる自分なりの栽培法。「いい環境に身を置くことは人間にも野菜にもきっと同じ。いい環境にいれば農薬も肥料も必要ないのではないだろうか」という発想からだ。背丈を超えるジャングルのように生えた草を土の中に漉き込んでみると、野菜が生まれ変わるように美しくおいしくなったという。野菜たちは自分の個性を解放するかのように伸び伸びと育ち、亜紀さんの想いを讃えていた。
7月の初め、白茄子が実り始めたという知らせ。霜が降りる頃までが旬だ。艶やかな紫茄子と、黄緑色の細長い白茄子が並んで実を膨らませている。多種ある茄子の中で珍しい品種を選んだのにも理由があった。「白茄子は実から次の種を取り出せる在来種。すこしでも命をつなぎたいという気持ちがあったんです。無肥料栽培にも適していました」。
おいしく育った白茄子や、それを育てたご夫婦への敬意を払いたい気持ちで、シンプルに焼き茄子にして味わった。白茄子特有の厚くて硬い皮を外すと、実はきめ細かくて甘い。とろりという食感を通り越し、ふわふわとしていて舌が喜ぶ。
農業と出逢い、その魅力にのめりこむようにしてこの道へ進んだ亜紀さん。無農薬・無肥料と聞けばストイックにも思うが、野菜にとって気持ちのいい在り方を求めた果ての自然な形。彼女が取り組む姿は、その昔、自分を助けてくれた農業に恩返しをしているかのように見えた。迷いのない突き抜けるような笑顔は、たくましく、強かった。
文/袈裟丸 茜
撮影/森田麗子
茅乃舎だしでつくる
焼き茄子と炒め茄子の和えもの
材料(2人前)
- 白茄子 1本
- 紫茄子 1本
- 【A】茅乃舎だし 1袋(袋を破って)
- 【A】白胡麻大 1
- 【A】生姜(みじん切り) 大1
- 【A】茗荷(みじん切り) 大1
- 【A】醤油 100㎖
作り方
- 白茄子は焼き茄子にし、皮を剥きひと口大に切る。
- 紫茄子はひと口大に切り油(分量外)で炒める。
- ①、②を和え、合わせた[A]をかけていただく。