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イベント 御料理 茅乃舎

2024.9.27

ヒナタノオトpresents「工藝のバトン」| 10月5日(土),6日(日)開催

引き継がれ、進化をし、未来へとつながっていく。食と同じように、暮らしに生きる工藝品もそのひとつです。現在活躍中の6作家の作品と、「つながるバトン」をテーマにした工藝作家自らによる文章を響かせた展覧会『工藝のバトン』を開きます。

企画いただいたのは、東京日本橋で工藝ギャラリー「ヒナタノオト」を営む稲垣早苗さん。多くの工藝作家と交流がある稲垣さんが大切にしているのは「つなぐ」ということ。工藝というものづくりには、作り手の才だけではなく、受け継いできたものへのリスペクトと、次の世代への愛が必要だといいます。
また、茅乃舎発祥の地「御料理茅乃舎」は、現在も茅葺き屋根をはじめ、竈や籠づくり、もちろん食についても、先人の知恵と技を現代につなげて、皆さまにご提案しています。

稲垣さんと茅乃舎、双方の想いが一致し企画された本展。ぜひ工藝のバトンをつなぐ6名の作家の作品をお手にとってご覧いただき、皆さまのご家庭へ迎えていただけたら嬉しく思います。
工藝のバトン

■日時
2024年10月5日(土)、6日(日) 10:30〜17:00
※時間は状況により変更になる場合がございます

 

■場所
御料理茅乃舎「楽舎」

福岡県糟屋郡久山町猪野字櫛屋395-1
092-976-2112(直通)

■出展作家(順不同・敬称略)
大谷桃子(陶芸/滋賀県)
松塚裕子(陶芸/東京都 ※福岡県出身)
富井貴志(木工/新潟県)
下地康子(染織/神奈川県 ※沖縄県出身)
勢司恵美(竹細工/茨城県 ※大分県にて修行)
クロヌマタカトシ(彫刻/神奈川県)

会場では作品とともに、作家自らが筆をとった文章も展示しています。稲垣さんから出されたお題は「祖父母、両親、または師匠など、前の世代から受けとった印象的なエピソード」。 それぞれのエピソードの豊かさと磨かれた文章力に、稲垣さんは心の芯に明かりが灯ったような気持ちになり、目頭が熱くなったそうです。全文はぜひ会場でお読みいただけたらと思いますが、作家紹介を兼ねて、その一部をご紹介します。

あるとき父が言った。歴史上の大きな出来事の傍らには、数え切れないほどの名もなき民の暮らしがあり、その無数の点の如き小さな営みが途切れず続いた先に今がある、と。宇宙に幾多も散らばる星屑が集まり、やがて美しき川を成して流れてゆく様が見える気がした。大きな時の流れに佇む、粒のような自分のいのち。

私がなぜ土に向かい、器を作る道を選んだのか今なら少しわかる。器は人の中にあって生きるものだから。作ることが自身の心を深く満たすものであると同時に、私個人という小さな枠を越え、人の暮らしの中で佳きものとなってほしいと、どこか願わずにはいられない。人の中で自らの心身を働かせ生きた祖父や父のように、きっと私も作ることで人と繋がる喜びを実感したいのだと思う。

(陶芸作家 松塚裕子『粒』より)
稲垣さんより作家紹介
現在は東京都で作陶する松塚裕子さんは、高校卒業まで福岡市で育ち、今もお父様が同地にお住まいです。イギリスの民衆の歴史を専門とする研究者の職を退かれて、読書と庭仕事を楽しむお父様の姿から、自らがなぜ土に向かい、器を作る道を選んだのをあらためて感じる松塚さん。働く形は違っていても、仕事に向かう心持ちを受け継いでいることに、陶芸を深めながら気づいていく姿が綴られています。
釉薬の彩どりも美しい、日々の暮らしを彩るカップやポット、ピッチャーなどが出品されます。
松塚 裕子
Yuko Matsuzuka
1981年福岡県生まれ。2004年武蔵野美術大学工芸工業デザイン科陶磁専攻卒業。2006~2010年神戸芸術工科大学造形学科陶芸コース実習助手として勤務。2010年東京都深大寺の自宅工房にて制作を始める。

その職人さんは十年前、弟子入りを断られたその人だった。竹を続けていたから、こうしてまた出会い、その手業を教えてもらっている。頭をぽんぽんと叩かれ、ねぎらい、褒められているようだった。今までの大変だった思いは吹っ飛んでいった。
ひとつひとつ、受け継いでいけている。よかった、嬉しい。喜んでくれている。よかった、嬉しい。
「あーよかった、よかった」
その魔法の言葉を胸に、いつか私も職人と名乗れるようでありたい。

(竹細工作家 勢司恵美 『魔法の言葉』より)
 
稲垣さんより作家紹介
茨城県で生まれ育った勢司恵美さんは、地元の竹細工職人に教えを請うたのですが断られ、大分県別府市で竹細工の修行を積みました。その後、地元に戻って再会した老いた竹細工職人さんと、新たな交流を育んでいます。
今展には、茨城県に伝わる竹籠を主に出品予定です。
勢司 恵美
Emi Seishi
1978年茨城県生まれ。2008年大分県立竹工芸訓練支援センターにて竹を学ぶ。卒業と同時に独立。時には職人さんに手ほどきを受けつつ、昔ながらの荒物作りを志す。現在、地元茨城に戻り、竹伐りからの一貫した竹細工の日々を送る。

両親が僕の祖父母の家の片付けをしていたときに、気持ちよくスーッと伸びた長い柄を持つ攩網(たも)を見つけて、我が家に持ってきてくれた。

この攩網の柄にはとても惹かれるものがあった。当時自分なりの柄がついたカッティングボードを作りたいと思っていた気持ちと、さまざまなアンティークの柄付き生活道具によって高まったインスピレーションがひとつになって生まれてきたものが、本展に出品しているスーッと柄が伸びた栗のボウルである。

(木工作家 富井貴志 『攩網(たも)の柄』より)
稲垣さんより作家紹介

新潟県で、日々の暮らしに響く美しい木の器や生活具を制作する富井貴志さん。日本の伝統的な美意識を現代にアップデートさせた器の数々は、使い手の食卓やインテリアに新鮮な感覚を提案し続けています。一見素朴でありながら、研ぎ澄まされたフォルムの柄のある器は、富井さんの代表作のひとつですが、お祖父様の手仕事がその原点にあって、それを見逃さない感性に脱帽します。

富井 貴志
Takashi Tomii
1976年新潟県生まれ。筑波大学大学院数理物質科学研究科中退後、森林たくみ塾にて木工を学ぶ。卒塾後、オークヴィレッジ株式会社に勤務。2008年京都府相楽郡南山城村に工房を開設。2015年工房を新潟県長岡市に移転。2019年第93回国展準会員優作賞受賞。

歴史ある豊かな島は、かの戦争で全てを失った。

「先達から受け継がれてきた優れた染織文化を絶やしてはいけない」
目の前にあった米軍のパラシュートを解き糸にし、払い下げされた化学染料で染められた衣類などをお湯で煮て色を落とし、その染液で糸を染め、布を織った。最初は米軍の母国帰省へのお土産品として、それはやがて戦後の生活の中に寄り添う布として現在に至る。この長く険しい道のりを歩むのに一体どれだけの強い意志があったのだろう?私はそのような先生達から染織を学んだ。

「くがにくとぅば」を漢字に表記すると「黄金言葉」、ことわざや教えの意。深く心に染み入る宝物の言葉を、これからも大切に前を向き手を動かしていきたい。

(染織作家 下地康子 『くがにくとぅば』より)
稲垣さんより作家紹介

ご両親のルーツを宮古島に持ち、首里で生まれ育ち、沖縄県立芸術大学の一期生として染織を学んだ下地康子さん。戦前まで続いていた琉球文化の真髄を、ご親族や師から感じ取ることができた最後の世代かもしれません。
人も含めた自然への感謝と祈りが込められた草木染の糸、そしてその糸を繊細に織り上げた布。心が揺さぶられるような染織布を出品くださいます。

下地  康子 / URIZUN
Yasuko Shimoji
1968年沖縄県首里生まれ。1986年沖縄県立首里高校染織科を卒業。1990年沖縄県立芸術大学工芸専攻織コース卒業。2015年第89回国展国画賞受賞。同年、日本民藝館展奨励賞受賞。2021年第95回国展準会員優作賞受賞。

母は、もうこの世にいないけれど、美味しいものを食べさせてくれたり、綺麗なものを見せてくれたり、その記憶の灯はいつも心の中で静かに光り、私が生きていく道を照らし続けてくれています。
これから新しい人生を歩んでいく若い人たちにもこの灯を渡して行きたいのです。
私は毎日、料理をしたりうつわを作ったりして人と関わっているのですが、いつか未来に、「ずっと昔にどこかで美味しいものを素敵なうつわで食べたな」と、ふと誰かが思い出して心が温かくなる様なうつわを残せれば幸せです。

(陶芸作家 大谷桃子 『灯を渡す』より)
稲垣さんより作家紹介

陶芸作家のご両親のもとに育ち、アメリカ北西部、インドネシアでの大学生活を経て陶芸の道に進んだ大谷桃子さん。夫の陶芸作家哲也さんとともに、育児と陶芸制作を明るくたくましく続けてこられた年月。3人の子どもたちの巣立ちを前に、陶芸作家の仕事を次の世代につなげようと弟子の育成にも力を注いでいます。
家族、弟子たち、多彩な来客との日々の食事を豊かに重ねてきた中から生まれた食の器を出品くださいます。

大谷 桃子
Momoko Otani
1971年京都府生まれ。1995年オレゴン州立大学卒業。1997年信楽窯業技術試験場釉薬科。1998年同場ろくろ科。1999年より各地でグループ展、個展、イベント参加多数。2008年夫の哲也と「大谷製陶所」を設立。

祖父は僕に将棋も教えてくれた。
あるとき自分の使っていた将棋盤と駒を譲ってくれたのだった。それが嬉しくて家で将棋の本を読みながら練習して、次のお祭りで祖父と対局するのが楽しみとなった。将棋を指している最中には何も言葉を発しないが、一手一手に祖父の思考が現れているのを感じることができた。互いの優しさや厳しさ、迷いが駒の動きで伝わるのだった。僕と祖父、寡黙な二人にとっては大切な対話の場所だった。
 

今でも時々、この将棋盤をひっぱり出して駒を並べている。
当時、金将という駒を一つ失くしてしまったことがある。祖父はすぐさま手元にある木端を切り出して、欠けた金将を手作りしてくれた。
並べてみると一つだけ不恰好に見えるのだが、僕にとってこの金将はどの駒よりもずっと輝いている。

(彫刻家 クロヌマタカトシ 『寡黙な対話』より)

稲垣さんより作家紹介

現在彫刻家として活躍中のクロヌマタカトシさんの木を素材としたものづくりは、暮らしの道具作りが原点でした。制作を続けながら自らの心に問い、慎重かつ果敢な制作発表を重ねる中で、導かれるように彫刻家としての人生を歩まれています。
今展では、心を寄せるお祖父様との思い出にもつながる鳥の彫刻を出品くださいます。

クロヌマ タカトシ
Takatoshi Kuronuma
1985年神奈川県生まれ。専門学校卒業後、住宅建築の現場監の職に就く。この頃、独学で木彫を始める。退社後、職業技術校にて木工基礎を学び、2010年独立。2011年初個展(匙屋)2015年パリにて個展(Galerie planeterouge) 2017年厚木に工房を構える。

6作家の作品を支える心の中の大切な想い。ほんの断片からでも伝わったのではないでしょうか。
「つなぐ」とは、世代をつなぐことだけではなく、作り手同士をつなぎ、作り手と使い手をつなぐ、という願いも込められています。工藝のバトンを感じ、あるいは受け取りに、ぜひこの展覧会をご覧いただきたいと思います。
 

また、『工藝のバトン』は、 千葉県市川市ニッケコルトンプラザで10月26日(土)27日(日)に開催される『工房からの風』において、巡回展としてご覧いただけます。(一部展示作品は異なります)
全国から50組以上の作家が集う野外クラフト展は、2021年に久原本家が受賞した「メセナアワード」を、2016年に受賞したイベントでもあります。

力みなぎる現代工藝作家の作品とその想いを通して、受け取ったバトンにあらためて想いを寄せて、渡していきたいバトンを思い描いてみませんか。展覧会を通して、心豊かな時間をお過ごしいただきたいと願っております。